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弘前市斎場
弘前市常磐坂2−20−1
昭和58年(1983年)竣工
延べ面積 1,637㎡
RC造2階建
建築面積 941㎡
78歳市の西側、33の禅寺がしっとりと杉木立のなかに立ち並ぶ禅林街をずっと抜け、車が急に坂道を下ると思わず、“おぉ〜!”と声をあげてしまうほど突然に、弘前市斎場は姿を表す。後方に津軽屈指の霊山、岩木山を従え、杉山とリンゴ畑の中に、重厚でありながら回りの景観にとけ込み、ひっそりと佇む。静かに玄関の車寄せに止まり、上を見上げると、天井はダイナミックなコンクリート格子梁で、訪れる人のあらゆる感情を受け入れ、これからとり行う儀式の荘厳さを呼び覚ますようである。
建物の外壁は打ち込みタイルで、内部は、炉前ホール・集骨室・事務室などの火葬棟と待合室のある待合棟からなる。炉前ホールの炉室は、化粧コンクリートはつり仕上げで、重厚な壁が静寂をかもし出している。故人が荼毘に臥される間、遺族らが待つ和室は、炉室と長い緩やかなスロープの渡り廊下で繋がっている。この渡り廊下は、黄泉の国と俗世を結ぶ、古事記由来の、黄泉平坂(よもつひらさか)をイメージしていると言う。収骨室の天井はトップライトで岩木山の方に光が抜けるように計算され、魂をお山に返すという考え。このトップライトからの自然光は、悲しみを和らげ、故人の人生の最後の時を静かに包み込む“すくい”が感じられる。
効率性や機能性だけでなく、遺族の心境や津軽の弔いということにきめ細やかに配慮した設計は、弘前が母の出身地ということや、前川自身、最初で最後の斎場設計ということで、力が入ったのではないだろうか。前川最晩年の作であり、弘前での最後を締めくくる斎場は、30年近くを経た現在でも弘前の人々の心に深く存在する。